物しか書けなかった物書き

ロバート・トゥーイ 法月綸太郎・編
短編集 2007年 河出書房新社
編するくらいならもっと物書いてくれ法月 ★★★


いわゆる「奇妙な味」ジャンル。
ファンタジーとも妄想ともつかない、ちょっとした思いつきを文章にしたようなものもあり、賛否が分かれそう。

たとえば「あっと驚くどんでん返し」みたいなものとは違っていて、変な方向から足をすくわれる、のだけど、ひっくり返らずに立っていられる、そんな軽さであった。
『階段はこわい』など、その典型かな。

『予定変更』ではなんとも言いがたい不条理に肩透かしを食わされた気分になる。ある意味つまんない展開だが、実はこのようなものを書きたかった気持ちがじわんと迫ってきたりする。
世界中の人が寄ってたかって、しかも万難を排して自分をおとしいれようとしていると思えてならないことが、人生にはけっこうあるじゃないか。うおう。


ついでにこの人↓

ナツメグの味

ジョン・コリア John Collier
短編集 2007年訳書 河出書房
シナモンを混ぜてみたらどうかね ★★☆


奇妙な味の第一人者、ジョン・コリアの最新作。と思いきや、1940年代に書かれたものであった。時代を感じさせないのが、「奇妙な味」の普遍性である。
平凡な素材でもとことん煮つめる(執着させる)と、味が出てくるのだ。ただし読後感はあまりよろしくない。
2008年04月25日 21:06 by 蕪  ※(0)  虎(0)  ミステリ・推理

九月が永遠に続けば

沼田まほかる
長編サスペンス 2005年 新潮社
人の心がホラーになる ★★


夫と離婚して高校生の一人息子と暮らしている「私」。
ある夜、息子はゴミ出しに行ったきり行方不明になる。次いで「私」の若い恋人が駅のホームで転落死。その男は、離婚した夫の現妻の娘の交際相手でもあった。関係者を訪ねて息子の捜索に奔走するが・・・。

「ホラー大賞」という文字がちらっと目に入ったので、ホラーだと思い込んで読み始めた。不気味な印象がないわけではないが、超自然な要素は出てこないし、なんか変だなーと首を傾げつつラストへ突入。
なあんだ、「第5回ホラーサスペンス大賞」、つまりはサスペンスの側だったのか。大賞だけあって、シンプルな話なのに、読ませる筆力は認める。

でも魅力は薄い。
ストーリーは大仰に進むが、つまるところ「そそる謎」のようなものは何もない。ゴミ出しで子どもひとり失踪だなんて、蒸発おじんじゃあるまいし、もっと劇的な状況を作るのもテクニックさ。

売りがあるとしたら、キャラクターか。
複雑でドロドロした人間関係や、微妙に気持ちの悪い近所のおっさんなど、設定を細かく練っている。
さしたる必然性なく後味の悪い話であり、2度とかかわりたくない気分にさせられるのは、それらキャラクターのせいではなかろうか。生きている迫力が足りないのである。
自分の作り出した人々に愛情を感じていないようである。それはストーリーにも影響を与えるであろう。
最終的にどうでもいいような人物にほっかぶせて収めてしまった安易さにもしらける。
2008年04月20日 15:16 by 蕪  ※(0)  虎(0)  ミステリ・推理

黒い森

折原一
ミステリ 2007年 祥伝社
安定感に一票 ★★☆ミ


惨劇の山荘を目指して樹海の中に入り込んだミステリーツアーの一行は、いずれもいわくありげな暗さを背負っている。その中でひとり胸をときめかせている美女樹里は、恋人に会うために参加したのであった。途中には首吊り死体などがあり、メンバーは散り散りになって、山荘では大量殺人・・・。はいはい。

つくづく樹海の好きな人だなあ。おかげで始めのうちは既読かと錯覚してしまいそうになる。
で、ふと思った。樹海は自殺志願者が引き寄せられる場所らしいが、そこで死ぬのは何死? 凍死はともかく餓死はつらいよね。
わざわざ出かけなくても、家の近くのビルから飛び降りれば楽なのに〜と第三者。

それにしてもノーテンキな小説。
とことん安易で非現実な設定、いいかげんなストーリー展開、単純で薄っぺらいキャラクター。

ツアーの目的は最初から露呈している(別に隠そうとしていない)。
裏表二部+袋とじという凝った構成も、例によってさしたる必然性は感じられない。一本建てで進めても、じゅうぶん読ませる話にはなったろう。ダブった描写でサスペンスを盛り上げるつもりだった? (ついでに稿料水増し)

結果的に、それらもろもろあわせてわたくしの好みなのである。もし登場人物が陰影に富む複雑な性格だったりしたら、それこそ違和感があふれて読みにくいに違いない。
ラスト、もうひとひねりの余地もあったと思うが、このあっけらかんさがよろしい(としておく)。

ロバート・B・パーカー(ハードボイルド)を最初に読んだとき、解説に『偉大なマンネリズム』と評されていた。ほめ言葉らしい。たまたまそれが性に合わず、パーカーはほかに読む必要がないとわかったのであった。

折原一はとりあえず新作があれば必ず読むことにしているひとりで、それも偉大なマンネリズムゆえ。
2008年04月02日 23:09 by 蕪  ※(0)  虎(0)  ミステリ・推理

乱鴉の島

有栖川有栖
ミステリ 2006年 新潮社 ★★☆


間違って、あるいは導かれて、カラスの島へ上陸してしまった火村とアリス。
そこで隠遁生活を送る高名な詩人、海老原瞬を慕って集う怪しげな人々。そしてお定まりの連続殺人。

ケータイがうじゃうじゃ普及してしまった現在、電話線が切られて連絡不能という状況を作るには、もはや孤島くらいしかありやせん。切断された電話線への対処法に関する疑問(電気コードのようにつなげられないのか?)は毎度わきおこるのであるが、これもお約束事として容認しておこう。

ハナシとしては読めるし、面白い(一般小説にすればよかったのにね)。
だけど、ミステリとしては「致命的につまらない」と断言したい。
理由? 殺人法がありきたりで、トリックというほどのものもないこと。動機がかなりチャチなこと。

それでも「人」が充実していれば補えよう。しかしキャラクターの魅力が足りぬ。狭い島なのに、どうでもいいような人々が多すぎて、区別もつかず(つかなくても差し支えないほどの軽さ)。
少数でも犯人当てが難しいのが、よくできたお館モノであるぞ。

それぞれ巷に実在する「誰やら」をモデルにしていそうな、あくの強い人物が出てくるのが、かえって安易さを浮き彫りにしているようでもある。モデルとなった人の記憶は2年も経つと人々の脳裏から消えてしまうであろう。
なによりも、「高名な詩人」とやらが、人々をそれほど動かすことのできるカリスマ性を持つと納得できるように描けていないので、核となる真相が絵空事っぽいのである。

下敷きにポー『大鴉』。
Nevermore... ふっとフレディの高い声がよぎる。
2008年03月25日 10:16 by 蕪  ※(0)  虎(0)  ミステリ・推理


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